やがて君になる 11話 感想 考察 ~錯綜する視線/沈黙の先にある感情とは~
(なんともない なんともない 先輩に見られるのも 先輩を見るのも ------小糸侑)
こんにちわ。づかと申します。
きゃっきゃうふふの合宿前半から、後半はHU〇TER×HU〇TERのような苛烈な心理戦を見せられたようなやが君11話でした。そのギャップはあまりにもタフでしたが、今回も感想&考察を述べてまいります。
※本記事はアニメ『やがて君になる』11話までのネタバレを含みます。ご一読の際は、11話まで視聴の上でご覧ください。なお、筆者は原作既読勢ですが、本記事に原作のネタバレはありません。
『やがて君になる』11話「三角形の重心/導火」
【目次】
1.三角形の重心を考察する
2.七海「澪」と七海「燈」子
3.視線から読み解く侑/燈子の心情
4.ブログ紹介&感想
1.三角形の重心を考察する
二泊三日の合宿が始まり、いよいよ生徒会劇の練習が本格的に始まりました。Aパートでは、日中の練習・夜はカレーを皆で食べてお風呂にも入る。いかにも高校生らしい健全な合宿風景を見ることができました。今回は夜、燈子たち女子3人が就寝する場面から考察を始めていきます。
まず、本考察全体を通じて軸に据えたいものが「視線」という要素です。
・自分→他人
・他人→自分
・他人→他人
・自分→自分
このように誰かを見る行為や目線を、矢印で表すようなイメージをしていただければと思います。
その上でサブタイトルにもなっている「三角形の重心」から見ていきますが、3人が就寝する場面は特にその視線の動きが顕著に示されています。
物語通りに視線を追っていきましょう。
①沙弥香から燈子への視線
②燈子から侑への視線
③侑から燈子への視線
簡明に、それぞれが好きな人に視線を送っていることが分かります。
このあと重要なことが、3人とも、一度送った視線を別の方向へ向けているという点です。
①沙弥香から燈子への視線→「もし2人きりだったら我慢できたかしら」(燈子からやや逆側へ視線移動)
②燈子から侑への視線→「もし2人きりだったら危ういところだった」(侑から視線を外し真上を向く)
③侑から燈子への視線→「佐伯先輩がいるこの状況じゃ悩む余地ないし」(燈子から逆側へ勢いよく身体ごと移動)
図に起こすとこんなイメージになります。
ともすれば燈子に荷重がかかりすぎて(=モテすぎて)、あっという間に重心が崩れて倒れてしまいそうですが、全員が全員、理性的な行動をとりバランスを保つことができました。それを示したものが次図です。
侑が最もリアクションが大きかったことは、侑本来の割り切りの良さ・未練がましくない性格を表しているのかもしれません。燈子においては、反対側に視線の逃げ場のある侑・沙弥香と異なり、視線キャンセルした後の引き先がありません。そのため、燈子は必然的に真上を見ることしかできなくなります。横軸と縦軸の関係でみても、燈子だけが縦軸であり虚空を眺めている(後ろは自分だけ、前にも誰もいない=好きな侑は幻想的なもの)と深読みできなくもありません。
この絶妙な均衡の保ち方、本当に「三人でよかった」...、という感想以外に浮かびません。以上が、サブタイトル「三角形の重心」の考察です。
2.七海「澪」と七海「燈」子
(澪と七海さんはあんまり似てないな -----市ヶ谷知雪)
合宿2日目、保たれた均衡はあっという間に崩壊します。遠見東高校のOBであり、燈子の姉・澪と同級生だった市ヶ谷さんの登場によって。
演劇の打ち合わせを行う過程で、燈子は市ヶ谷さんの「生徒会長はもっと人を動かすものだと思ったよ」という一言に疑問を感じ、見送り際に「姉はどんな生徒会長だったのか?」と尋ねます。
そこからの会話の一部始終は、燈子にとって、7年間の努力の根底を揺るがす強烈なものでした。
・あいつには散々こき使われた
・仕事は任せきり
・その癖おいしいところは決める
・宿題の手伝いまでした。大変だったけど面白かった
これは市ヶ谷さんから見た澪の人物像です。
「なんでも自分で完璧にこなせて 憧れだった」という燈子のイメージする人物像とはあまりにかけ離れています。
市ヶ谷さんから澪の話を聞くたびに、燈子が抱いていた姉のイメージが、海の潮が急速に引いていくような、足元が崩れていくような不安を、見ている自分も感じる場面でした。
ここから考察したい点は大きく分けて3つです。
●顔の見えない澪
生徒会室で市ヶ谷さん達と話す澪は、顔が見えません。11話直前の10話Cパートでは、燈子とジャンケンしていた澪の顔がはっきり映し出されているので、何かしらの意図があることが予想されます。
色々考えたのですが、筆者は、「市ヶ谷さん本人の回想かつ、市ヶ谷さんから話を聞いた燈子のイメージ」が上記の画像なのだと結論付けました。旧生徒会の他のメンバーの顔も燈子は7年前に見ています(下記画像参照)。澪の顔が見えないのは、市ヶ谷さんから聞く澪の顔を、燈子が全くイメージできないからだと考えます。
●セミとヒマワリ(向日葵)
続いて、背景から考察してみます。
■セミ
市ヶ谷さんとの会話の場面、ヒグラシが鳴いていました。しかし、その直後映し出されていたセミはヒグラシではありません(ヒグラシはミンミンゼミのように羽が透明)。ぱっと見では、特定できない種類のセミのように見えます。飛び立った鳴き声でようやくアブラゼミかな、と想像できる程度の情報でしたが、この場面も、特定できない澪の人物像とセミを被せていた演出かもしれません。
■ヒマワリ(向日葵)
注目したいのはその花の向いている方向です。通常、太陽の方角に向かって一様に同じ方向を向くのが自然ですが、このヒマワリは向いている方向・大きさともにバラバラです。このヒマワリは見ている人の立ち位置により見え方が全然異なります。ちょうど、市ヶ谷さんと燈子の、澪への見方が大きく異なったように。
ちなみに、ヒマワリ(向日葵)の花言葉は「憧れ・あなただけを見つめる」なので、前者は燈子から見た姉の表現とも噛み合います。また、後者は後述していますが、侑が燈子を見つめ続ける視線ともリンクしている可能性があります。
●七海「澪」と七海「燈」子
最後に、本項の表題にもしているこの姉妹の名前について。
七海「澪」/七海「燈」子
— づか_ygkm (@duka_yagakimi) 2018年12月14日
名字は同じ水属性だけど、名前は水属性と火属性で正反対なんだよなあ
ツイッターでもあげましたが、この2人は本当に正反対な名前の構成になっています。もう少し詳しく述べると、「澪」のさんずいは水を編にしたものであり、つくりには「雨」の文字が入っています。七海という姓を受けて、その流れに沿ったこれ以上ない自然な構成の名前です。余談ですが、つくりのもう一つの「令」の文字は、小糸「怜」の中にもあるため、「令」は姉共通の文字なのかもしれません。
一方の燈子は、火が登ると書いて「燈」です。海の流れからはそぐわない矛盾した構成になっており、名前からも、この姉妹が市ヶ谷さんの言うように「全く似ていない」という暗示がなされていることが伺えます。
余談ですが、火が登るは「ひがのぼる=日が昇る」ともかかっているのではと、(現時点では妄想しかできませんが)考えています。海から日が昇る=Sunrise(サンライズ)であり、アニメ第9話での挿入歌である『rise』の冒頭の歌詞でもあります。話の本筋からは外れましたが、このような見方も今後に役立つかもしれないので、文として残させていただきます。
3.視線から読み解く侑/燈子の心情
Bパートラスト、花火の部分を中心に考察します。この部分が、今回のお話で最も難解であり、苛烈な心理戦と評した部分になります。考察もまとまりに欠ける部分があるかもしれませんが、ご容赦ください。
●「沙弥香ならいいよ」の真意
視線の話は、特に侑に関するものを中心に述べたいのですが、その前に沙弥香と燈子の話をまとめます。
「市ヶ谷さんと何か話していたの?」
「市ヶ谷さん・・・」
「市ヶ谷さんって生徒会のOBだったの?」
これは、沙弥香が燈子に対して踏み込んだ際のきっかけとなった言葉です。3回も繰り返し名前を呼んでいる通り、沙弥香が意を決して発した言葉であること、市ヶ谷さんが大きなキーパーソンだということが分かります。沙弥香がなぜそのことを知ったかというのは、Aパートラストで、市ヶ谷さんと燈子の会話を聞いていたことによります。
この会話を聞いていたことが、侑の持っていない、沙弥香にとって大きなアドバンテージとなりました。この会話を聞いていたからこそ、市ヶ谷さんを見送る際、燈子が追いかけた場面でも、侑と違い沙弥香は驚いた表情を見せません。燈子の様子が昨日までと違うことにも、推察することができる立場にありました。
線香花火の場面に戻り、沙弥香の問いを受けて、燈子の目は8話で見せた様な瞳になります。
「踏み込んできた」と察知するかのような瞳。
「燈子のお姉さんの話・・?」と続ける沙弥香。
これに対し、燈子は拒絶も沈黙することもなく、率直に自分の気持ちを話します。そして「沙弥香ならいいよ」と踏み込みを許すような発言をします。
ここの燈子の真意を理解することは困難ですが、思いつく理由は、
◆燈子は沙弥香に対して恋愛感情を持っていない。が、一番の友として信頼している。
◆自分もそうであるように、沙弥香も自分のことを一番の友として見ていると思っている。
◆沙弥香は自分に好意を抱いているとは思っていない。
ゆえに、もっとも信頼のおける、いわばビジネスパートナーのような存在である沙弥香に対して、その問いに応えた、と見ています。裏を返すと沙弥香に対する恋愛的感情が一切ないところが、沙弥香視点では非常に切ないところです。その後の沙弥香の頬を赤くした表情を見ると余計に・・。
●導火して灯されたものは・・?
燈子と沙弥香の会話を踏まえて、ここからは侑視点を中心で考察を続けます。
11話の侑はこれまでの話数と比較して非常にイレギュラーなものでした。
◆Bパートにおいて侑の独白(モノローグ)が一切ない
◆11話通して燈子と2人きりの場面が一切ない
特に前者、独白がないことにより、11話の解釈の困難性がより高まっていると感じます。独白がない分、解釈はそれ以外の動作に頼らざるを得ません。筆者が頼っているものはやはり視線であり、花火の際の侑の視線は特にしっかりと追うべきものと考えています。
花火ですよ、と燈子に声をかける際の侑。とても不安そうな表情をしています。
なぜここまで不安そうな表情をしているかは、Bパートを侑視点で振り返ると見えてきます。
まず何よりも、侑は燈子と市ヶ谷さんの関係を把握していません。沙弥香と決定的に異なるものがここの情報の差です。だから市ヶ谷さんを見送った場面でも侑は「先輩!」と声をあげ驚いています。ほかにも、打ち合わせの際にも、侑の視線は燈子を追い続けいている描写があります。
(分かりにくいですが左奥から侑が燈子を見つめています)
・市ヶ谷さんが来てから先輩の様子が変だ
・市ヶ谷さんを追いかけてどんな話をしたんだろう
・夜になったら、その話をわたしにはしてくれるかもしれない
と、おそらく、侑はこのレベルの想像しかできなかったと思います。
不安そうな侑を「ああ 優しいなあ」と見つめる燈子。
11話では唯一、2人の目が合うシーンではないでしょうか。ポイントは目の震えです。侑が燈子を見るとき、燈子が侑を見るとき、ともに目が震えていることが分かります。この目の揺らぎは好意を抱いている相手にだけ見せる視線の可能性が高いです(この演出が11話限定か否かは不明)。
そして燈子の独白はこう続きます。
「甘えてしまいたい だけどどこまで許されるんだろう その優しさを使い尽くしてしまうのが怖い」
市ヶ谷さんの言葉を受けて、燈子は精神的に揺らいでいます。姉のことが強く頭に蘇ってきている可能性が高いです。もしかしたら、「私は姉に甘え過ぎた。私が姉の優しさを使い切ってしまったから、姉は死んでしまったかもしれない。私が悪いんだ。」という自責の念を抱いているかもしれません。だから、侑に甘えたいけれども甘えることができない。
だけどその想いは、隣にいる侑は知る由もありません。
「すごいいっぱいだね花火 どれにしようかな」
と、当たり障りのない燈子の発言を心配そうに眺める侑。
この一連の表情が、個人的には11話のハイライトだと強く捉えています。本当に繊細な表情です。カットの枚数も相当じゃないかと。
・夜になっても、先輩は先輩のままだ。絶対何かあったのに。
・弱い先輩を見せても大丈夫なのに。
・でも、わたしからは何もできない。何も言えない。
そんな侑の独白が聞こえてくるようなとても寂しそうな表情が、非常に繊細に描かれています。10話のドーナッツ屋で「わたしからは何もできない」の独白があったように、侑は燈子から好かれているがゆえに、何もできません。ここで侑が心配していることを燈子が気づいてしまうと、燈子は離れて行ってしまうからです。
「なんともない なんともない 先輩に見られるのも 先輩を見るのも なんともない」
Aパートでは、侑の独白がいくつかありました。合宿1日目がつつがなく進んでいること、そしてお風呂場でのこの言葉。Aパートでの侑の独白の多さが、Bパートでの沈黙をより際立たせています。Bパートで先輩を見る侑は、とても「なんともない」様子ではないのだから。
花火の場面は続きます。
1年生3人で花火をやっていますが、この時も侑の目は揺らいでいます。上述した通り燈子は名前に「火」が入っているので、花火に燈子をなぞらえて、それに魅せられている侑の描写かもしれません。
一方で燈子は、侑のその様子を後ろから見ています。この時の燈子の目も揺らいでいます。本記事タイトルにした「錯綜する視線」というのは、この花火の様子から採用した次第です。視線も会話も、思うように交わってはくれません。この後、沙弥香が燈子の隣に来るわけですが、瞳の揺らぎはその瞬間止まるのがなんとも皮肉です。
沙弥香に対しては好意を持っていないがゆえに受け入れて、侑に対しては好意を持っているがゆえに受け入れない。一連のものすごい描写です。
そして11話は最後の場面に。
燈子と沙弥香の視線は、ともに空を見上げています。
それを見る侑の表情です。
先ほどの寂しそうな、不安そうな表情でもなく、もうその表情からはどの感情も想像することができません。ただただ、燈子に視線を送るばかりです。あれだけ丁寧に描いていた侑の表情が消え、その分、心の奥底ではどれだけ複雑な感情が渦を巻いているのでしょうか。圧巻の心理描写が続いた花火のシーンでした。
ここで「導火」というサブタイトルを考えますが、灯されたものは侑の燈子への「嫉妬」の火だと捉えて、本考察を終えたいと思います。嫉妬というと安易な発想かもしれませんが、ここまで考えてみて納得できるものが嫉妬しか浮かびませんでした。うーん11話難しいです、本当に!!
以上で11話の考察を終わります。
4.ブログ紹介&感想
まずはいつもご紹介させて頂いているゆっちーさんの記事です。セミの描写から、燈子が絶望の淵に立つようなイメージを丁寧に考察されています。また、「沙弥香ならいいよ」への解釈に対するアプローチが、自分とかなり似ており、個人的にとても面白かったです。また、コメント欄の抜粋部分も非常に興味深い内容でした。
yagakimi.hatenablog.jp
続いてygkmさんの記事をご紹介させていただきます。燈子の落ち込んだ姿を見て踏み込もうとした沙弥香の心情を、過去の沙弥香の経験などからとても丁寧に考察されています。侑とも似た優しさを持っている沙弥香、燈子は優しい人に囲まれて幸せですね。余談ですが、ゆっちーさんとygkmさんの記事のサムネイルが、見事に燈子と沙弥香で向き合っていることが素晴らしい息の合い方です(笑)自分は侑中心の記事だったので、うまいことバランスが取れました。
記事のご紹介は以上です。
それでは、ここまで読んでくださった方がいらっしゃいましたら、本当にありがとうございました。アニメも残すところあと2話までやってきました。自分としてはこのような考察記事を毎週アップすることは初めての試みなのですが、読んでくださる方がいらっしゃって、またコメントもいただくことができ、本当にうれしく思います。
ブログを書くことで、よりやが君のアニメを楽しく見ることができています。ここまできたら残り2話も頑張っていきたいと思いますので、今後ともよろしくお願いいたします。ではでは!!
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